• 2022年01月24日
  • 楽曲制作

独学のトラックメイカーが教える「ミックス・マスタリング講座」【その2:現代の音圧と基本概念】

初めまして。achiyochiと言います。

最近は、占い師・デザイナー・楽曲制作・イラスト・イベント企画、その他諸々…日々病みながら東京にうんこを産み落としては小銭を抱えては浪費し、小股潜りさながらの生活を送り、縁側とお庭のあるおうちで犬と猫と暮らしております。

前回のミックス・マスタリング講座の手前である「収録・ルーツ」をメインに紹介させていただいた。

独学のトラックメイカーが教える「ミックス・マスタリング講座」【その1:アウトプット以前のお話】

今回は調整で考える基本的な概念と、現代の音圧についての話を解説したいと思う。

 

現代の「音圧」

前回言ったように、ミックス・マスタリングは技術であるとともに「思想」や「その人の歴史」が介入してくる。なので本来正解や不正解はない。明らかに技術的に拙いと言ったことがあるが、インターネットでアマチュアがいつでも楽曲配信できる現代ではそう言ったことは些細な問題である。大事なのは、その音圧からわかる「製作者のジャンル定義」である。

今回は、一般的に「スッカスカな音楽」とされてしまいそうな楽曲を3つご紹介する。

一つ言いたいのは、スカスカな音源だからと言ってダメな音源ではない。あくまでそこに製作者の意図があり、リスナーの心を揺さぶる作用があればミックスが悪いとかそういうことではない、ということである。製作者の頭の中が垣間見えるようなミックスを、僕の解説とともにみんなも体感して欲しい。

 

音圧問題で話題になった「YOASOBI」

 

 

まずはこちらを紹介しよう。音楽ジャーナリストでる宇野維正さんがTwitterで苦言を呈したことが去年の音楽界隈では話題となっていた。

 

 

曰く、音圧がしょぼいと評価し、こちらのツイートは炎上していたことを今でも覚えている。本人も音楽そのものを否定しているわけじゃないのだが、かなり言い方が強かったので…うっかり感情逆撫でしてしまいましたね…。でもアルバム通して聞いてるからめっちゃ偉い…。

確かに、僕が聴いてもノベっとしたミックスされてるな、と思う。でもそれはパッと聴いた時の印象で、この楽曲やYOASOBIのスタイル、歴史、思想やリスナーにどう訴えたいのかを紐解くと納得できる。あ、あとビースターズアニメ面白いのでみんな見てね!

 

Ayaseはボーカロイドプロデューサー、ikuraさんの歌声との調和

まず大前提としてインターネット音楽を大きく支えたのはボーカロイドで、その歴史も10年以上となり、ボカロP上がりの有名アーティストも米津玄師をはじめ今や一般的となっている。10年以上ってすごいよ。僕が小学生の頃RIPSLYME聴いてて、その時のJ-hiphopの歴史くらいはもう仕上がってるのよ。最近出た話題の…とかじゃないのよ。

ボカロを聴くリスナー層は高級なオーディオで音楽は聴かない。PCのスピーカーや下手すりゃiPhoneのスピーカである。低音はいらないのである。iPhoneなんかで鳴らして、学校でクラスの友達と共有するのに特化しており、ボカロカルチャーならではの仕上がりとなっている。

さらに、今回紹介した楽曲ではドラムの音色や4つ打ちの構成がダンスミュージックっぽいのだが、コンプレッサーで結構潰したような音になっている。なのでキック音が抑えられて乾いた感じになっているし、スネアは機械的にサスティーンが伸びている。ピアノの音もパッキパキにローカットされているし、シンセのブリブリした音も、かなり乾いた音になっている。そして、ボーカルがものすごく前に出たように調整されている。多分、結構マイクに近づけて収録していると思われる。こうすると個人的には「閉鎖感」が生まれて、リスナーに問いかけやすくなるというメリットがある。

かつてレディオヘッドのトムヨークが「キック音が強調された音楽ばっかり世に出回ってクソダサいしキショい」と言ってたことがある。最近の音楽を聴いてるとそういう風潮は完全に消え去ったなと思う。リスナーはキックドラムが大きければ大きいほどいい音楽、という解釈はもうとっくにしなくなっている。YOASOBIのマスタリングがどれほど現代的な音圧にされているのかがよくわかると思うし、インターネットから派生した音楽がどう言った物なのかもよくわかると思う。

もう一つ言いたい。先ほどドラムについて言及したが、こういうドラムの鳴らし方は今まで邦楽ロックを聴いてきたリスナーに対して聴きやすい。あまりにドンシャリにしてしまうと本当にただのノリノリなだけの楽曲になってしまい、囁くようなボーカルやそこに乗る歌詞の意味が薄れていく。YOASOBIの従来のリスナーのことを考えれば妥当だし、こういうふうに一つ一つ紐解けば、この一曲の音量調整だけにどれだけYOASOBIの考えがこもっているのか、汲み取ることができる。

宇野維正さんの意見も一方でわからないわけじゃない…僕だってこの曲をいいスピーカーでは聴かない…そこに意味はないからね…でも、許容されてるかはともかく、そういうカルチャーでは響いてるしその外側のリスナーもちゃんと感動しているのは事実ですね。それが全てなんじゃないかな。いいのか悪いのかはわからないですが、しかも、前か後ろかもわからないけど、音楽は一歩一歩と進んでいる。そう感じますよ。

 

長谷川白紙

 

 

この人は個人的にめちゃくちゃ尊敬しているので「スッカスカ音楽部門」みたいな枠に入れるのすごい心苦しいですが、事実そういう意図を汲んでミックスされているので、そういうところの素晴らしさを紹介したいと思う。

こちらの「あなただけ」という楽曲で一躍人気になったりと、いまや超スッゲー人となった(語彙力どうした)のですが、こちらもどちらかというと「リッチなマスタリング」という印象はありません。

どの楽器も冷たく乾いてます。ミックス・マスタリングに対してもかなり特徴的だなと思います。しかも結構生音とか使ってる感じしますのにね、かなり意図的にこういう表現にしております。

で、意識無意識に限らず、自身の音楽性と完全マッチしているのです。ファルセットに近い、昔の音楽では完全タブー扱いされた発声法が最近の音楽では主流です。その声に乗せる楽器たちまたはオーディオのシステムたちも今ではものすごく考えられてて、調和を感じます。

なので、長谷川白紙さんの音楽のミックスに関してははっきりと意図や思想を感じるので、もはやこちらが何かを言うこともないって感じです。聴いていると感じ取れるかと思います。みんなに今回言いたいことは、ミックス・マスタリングの自由さを伝えたいので、聴いていただければその意味がわかると思います。

「おいお前。伝えられないだけなんじゃねーの?」って言われそうですが、はい、長谷川さんの楽曲を伝えるなんて…どうやって伝えたらいいんですかね…逆に知りたいわ…でも、感覚的に聴いたらわかるでしょ、このミックスの感じがどれほど自身の楽曲やノウハウや歴史考え全てと調和していて、今までの制作にずっと寄り添った感じのこの…わかるでしょ…いや、分かって。分かってください。

 

Vtuberから見る「音圧」の思想

 

 

こちらはホロライブ3期生宝鐘マリン船長の去年8月にリリースされた新曲「Unison」である。正直この楽曲はめちゃくちゃ「食らった」。

スッカスカ部門見事選定おめでとう!って言うわけじゃないですが、まぁ、ミニマルテクノですからね。何がすごいって、ここまで極上のミニマルテクノにVtuberである宝鐘マリンがメロディアスに歌い、アイドルソングへと昇華させつつも、「新しい音楽」を求めるコアな音楽ファンの心を掴んで離さないギャン尖りのサウンドも兼ね備え、なおかつ海外リスナーを皮切りにめちゃくちゃ再生数を稼ぎ、成功している点である。正直僕もこれを聴いてびっくりした。マジか。ヤバすぎんだろこのサウンド…と思いました。

こちらの楽曲は、EDM/フューチャー・ベース系の音楽性で知られるプロデューサーのYunomiが手がけている。やばすぎ。

今回はミックスに焦点を当てるので、そこにフォーカスしたいが、スカスカどころか、音楽的にミニマルなのでそもそもが極限まで削ぎ落とされている。何より、ブレイクに入った時にボーカルは盛り上がるのに楽曲がほとんどキックと簡単なサスティンの短いアルペジオっぽいループになる、と言うところだ。イカつすぎる。インストで聴いてもかなり展開にこだわりがあるので、是非聴いて欲しい。

で、こちらもキックは相変わらず乾いている。そりゃそうだ。僕がそういう楽曲ばっかりチョイスしているので。何度も言うがこの解説の趣旨は「意図的な音圧削減は逆に音楽としてのクオリティを上げ、その思想をリスナーに強烈に印象付けられる」と言うことだ。一貫してミックス・マスタリングに対する自由さと意志を持たせることの重大さを説いている。でも今回紹介してきた楽曲たちは、そもそも楽曲自体にオリジナリティの強いラインナップとなっている。そういう楽曲たちだから成立していると言う点もぶっちゃけある。だが僕としては、そういう総合的な要因も絡み合わせていかないと、別にミックスやマスタリングは単独で存在しているわけではないので、だからこそ、その意義と強い思想が必要だと考えてもいる。人々にどういうふうに聴かせたいのか、イメージしていただきたいのである。

 

…にしてもこの曲やばいな。ヤバすぎんだろ。こういうのがVtuberという世界で生まれちゃうと、チェックせずにはいられないですね。

 

 

ミックス・マスタリングの基本概念

ここからは、基本的な概念をまず説明したいと思う。僕ってば、本当に優しいってばよ!!

僕個人的に思うのが「僕にそういうこと聞いてくる人はまず調べてるのかな…」というところです。ここで話すことはもう基本中の基本とする。ミックス・マスタリングで何を意識しないといけないのか、そういうところを説明したいと思う。中級者としては不要なものだと思うので読まなくて結構である。

下記に、ミックス・マスタリングに関する大きな要素をまず説明する。あとはこれらの膨大なジャンケンゲームでその楽曲のキャラクターを決定づけると思っていただいて構わない。

 

ボリューム

まずは音量です。音量とは何か?これはわかると思う。スピーカーの震わせ具合だ。大きく震えると音は大きく、小さく震えてると音は小さい。ここでいう「スピーカーの震え」は、スピーカーの前後の幅の大きさのことである。

この前後の幅を、この音はこれくらい、あの音はこれくらいってするのがボリューム調整である。一番シンプルかつ、一番悩むポイントである。よく、キックドラムはドンドン!と大きい方がいいからリミット限界まで上げた方が心地よい、とされるが、それはマスタリングする人の中での正義の範疇である。ここまで説明してきてもう分かったと思うが、僕がここでいくら説明して、自分でミックス・マスタリングをマスターしても、自分が気に入ったミックスさんの音は永遠に出せない。だからそういう職業が生まれるわけだ。自分でもあの人のような音を出せるようになりたい!!ってそれは無理な話であり、真似事くらいはできるだろうが本当に気に入ってるなら永遠にそのミックスさんと仕事をすることが必須である。ずっと言ってるがみんなそれぞれ思想がある。これを見ているあなたにもある。それらから逃れることはできない。自分の器なのだ。だからこそ気に入ったミックスさんがいたら、しっかりお金を払って仕上げてもらうべきだし、その人の思想を買ってあげるべきだ。ボリュームという項目だけでも、この思想は大きく反映される。というか一番反映されると言ってもいいだろう。どういうバランスが気持ち良いのか、そしてその人の経験も考慮される。

広く一般的な解釈と、個人的によくやる感じの音量調整の解釈を記載しておく。僕の場合、まず「基音」みたいなのを作る。実際にはそういう名前じゃないが、それを僕は「ドラム・パーカッション」で定義つける。つまり、ドラム・パーカッションは基本マスターをいじらない、またはいじったとしてもそれを最大として捉える。これ以上の大きい音はないようにする。いや、これ以上大きい音がないって考えでもないんだけど、要するにこれを「絶対値」と捉える、ということだ。この音の音量を標準とする。

基本構成を考えるなら、パーカッションの他に、ギター・ベース・キーボード・ボーカル、と言った具合か。ギターやキーボードは半分以上ボリュームを下げる。音は全体的にピークを超えない方が超えるよりかはいいので、かなり下げる。後でステレオアウトの方で潰しつつ引き上げるので全部小さめに設定する。その方がまとまるので。

ベースについては後術。やっぱりボーカルは前に出すが、ハモリはかなり小さく鳴らすようには心がけている。その他も楽器もあるが、基本的には耳で聞くように。

 

帯域

ここにきてようやくミックス・マスタリングらしい用語が出てきた。

帯域とは、いわゆるイコライザのことであり、一般に20Hz〜20kHzの範囲の音域で調整できる。こちらはスピーカーの震える細かさだと思っていい。1秒間にたくさん震えるほど高音で、震える数が少なと低音になる。20Hz〜20kHzは一般人の可聴範囲となっている。

それぞれのトラック(楽器)に対して、指定した帯域のボリュームを調整して複数の楽器を馴染ませるために使われ、一番基本なのは「ローカット」である。どういうことかというと、大体、大きく見積もっても200Hz以下を該当する楽器にローカットする作業である。

これをしないとどうなるかというと、楽器がたくさん同時になる際に低音同士がぶつかり、どうしてもモコモコした音になってしまう。最悪、何がどういうふうに鳴っているのか分からなくなり、リスナーが聴くと聞き苦しくなる。

僕の場合、基本ドラムとベース以外は全てローカットをする。ここで留意して欲しいのは、現実世界の音と、データ音源の中でピークが0dbと定義されている音では考え方が少し違う。ここはあれこれ言うとややこしいので説明は省く。

ローカットすることで音源全体がクリアに聞こえ、ベースやバスドラムの輪郭がクッキリしてくる。ただし、このローカット具合でその音源の顔色が全然違ってくる。逆に「ハイカット」と言い、高音域を帯域をカット、多少下げることでもその音源の聞き応えが変わってくる。主にローファイヒップホップなどではこう言う表情が求められる。いくらローファイ音質を求める方向性を取ったとしても、ローカットは必須である。考え方としては、ローファイをローファイたらしめる楽器や音質、全体のバランスの調整が必要になる。音源によるが、自分のイメージを脳内で確かめながらそのイメージに近づけるようにしていただきたい。

このイコライザ調整は非常に奥が深いし、種類も多い。CUBASEには元々帯域をカットする項目がエフェクターと別に設けられているが、エフェクターでもパラグラフィックやチャンネル系のイコライザ等色々とある。また、意図的にブーストさせて楽器の音色の表現を増やすことも可能である。だが、この場合はミックスとは考え方が違い、エフェクトという発想で考えるべきである。

イコライザはエフェクターの面もありミックスの面もあり、色々と初心者には混同があって初めはよく分からないものだと思われることが多い。ミックスの場合、優先的に考えたいのは「どこをカットするか」という思考で調整して欲しい。dB値をプラスにするのは絶対に禁止して、マイナスで考える。どこの帯域を落とすのかだけ考えれば良い。

 

低音域

20〜200Hzくらいと考える。この帯域では基本的にバスドラとベースだけなって欲しいと個人的には考える。なのでそれ以外の楽器は基本ローカットである。波形の中にベースとバスドラムの入る余地を与えてあげるのだ。こうすることでベースとキックドラムはこの帯域内で自由に遊んでくれる。

 

中音域

200〜4kHzと考える。この範囲の考え方もみんなの自由で良い。アバウトにこれくらいである。中音域で注意したいのは「ボーカルの埋もれ」である。

ボーカルのローはカットしておく。これは必須。その上で、ボーカルとぶつかる可能性のある楽器は「ギター」である。ギターがアコースティックやガットギターと、ナチュラルなものであるほどそのぶつかりは起こりやすい。

案外ボーカルの帯域は低いところにある。キーボードやピアノも対象に入ってくるが、こちらは音色にもよるがもう少し上なのであんまりぶつかることはない。プラグインでもデフォルトでハイ目にプリセット組まれていることも多いので、打ち込みに限って言えば初心者でもすんなり仕上がるようにソフト側で配慮はされている。

こういう場合、あまりボーカルはいじらない方が良いということである。また、御述するが、ボーカルには基本的に音圧を強めにいれることがあると思う。こうすると今度は低音も圧力がかかるのでボリュームが引っ張られる。

楽器の構成によっては、特にバンドサウンドなんかになるとかなりボーカルが埋もれる。めちゃくちゃローカットしても埋もれることがあるので、別の原因を考えると良い。または、一度パラメーターをリセットすることもオススメだ。僕の場合、よくギターをドンシャリにしてボーカルとかぶる帯域はほんの少し下げる。これに限っては耳で判別するのが難しいのでグラフを目で見る(おい前回耳で聞けって言ってなかった???)

しゃーないじゃん。じゃあなんのためにDTMにはイコライザのグラフィック表示があるん?あったら使うでしょ。便利でしょ。ああ?おん?やんのか???

 

高音域

4kHz〜20kHzと考える。下の方は中音域と捉えてもいいかもしれないけど…まぁいいや。ジャンルによるそれは。

この辺は、ハイハットとかの領域になってくる。ここでできるのはハイハットをどういうふうに聞かせたいかくらいしかないかなと考える。あんまり高音域をシャリシャリどうこうしようという考えは僕にはない。ドラムとかのトラックを、ここら辺をちょっと下げてあげると、渋くなる。ちょっとタルさも出てくるので、意図的にやりたい場合はオススメだ。

一つ気にして欲しいのは、高音域がそんなになってないからと言って低音域くらい音を出さないようにして欲しいということである。そんなことをすると、銀杏BOYZの音源みたいになってしまう。めちゃくちゃ激しい音楽だったら全部の帯域がマックスになっていたりするが、大体の人はそんなことはしないだろう。それに、クリアなサウンド=高音が強いってわけでもない。全体の輪郭の話になってくる。

ちなみに、ベース等の楽器は大きくハイカットさせる。まぁ、ベースのフィンガーノイズを意識したい場合はあえて残す場合もあるが、僕の場合はベースが際立つ音楽を作ることがないので(作りたいけどベーシストの思考を持ち合わせていない)基本的にはハイは全カットである。

 

パン

パンというのは食べ物のことではない。スピーカーには右と左にスピーカーがあり、これをどちらかに割り振ることができる。これをパンという。カメラでもパンニングって言うよね。

これを利用すると、音源に立体感が生まれるだけでなく、それぞれの楽器の「埋もれ」を回避することにも役立つ。

基本的にはパンはハッキリ右!左!ではなく左右寄せる感じで微調整できる。バンドサウンドの時は、実際のライブの立ち位置を想像し、それっぽくそれぞれの楽器を左右に調整してやれば良い。本当に目の前で演奏しているような体感をリスナーは得ることができる。それに楽器同士がかち合いにくくなり、その楽器もハッキリと聞こえやすくなる。パンに関してはこれ以上特筆することもないが、左右のバランスが均一になるようにはした方が良いだろう。

僕の場合は、実はボーカルもほんの数個左右に振ることがある。やっぱり楽器がどセンターにくると言う考えを僕は持っておらず、何かしらの揺れを期待してそうしている。ソフトに収録されているドラムは勝手に左右に振られているのでそこまで気にする必要はない。ボーカルもセンターに置かない発想は、皆さんの参考になるか分からないが、こう言う人もいると言うことがわかってもらえれば幸いだ。また、ハモリを乗せるときも結構大きめに左右に振ることがある。その方がかち合わずに綺麗にハモリを聞かせることができると僕は考える。そこまで手間じゃないのに効果があるので是非試して欲しい。

以前、パンについて深く考察したり調べたりしたことがある。「パンって左右には触れるけど前後には振れないのか?」ということである。

実はなんだか仮想的にそういうことができるプラグインもあるみたいだが、とある記事によると「スピーカから出る音に前も後ろもあるかいな。そんなもんはボリュームで前後させる以外になくね?」ということが書かれており、実際ポピュラーなマスタリング本等でも「前後の調整はボリューム」というのが相場となっている。へぇ。

だが、特にボーカルに関して考えて欲しいのだが、マイクにめちゃくちゃ近づけると、もはやのちのミックス・マスタリングで前後には振れないのである。例えば、近くで収録したボーカルのボリュームを下げたところでただボリュームが下がるだけである。

だからこそ前回では収録の話をした。この辺のニュアンスで結構僕は悩むことが多い。もちろん音圧をあげると詰まっていくので近くで歌ってるように感じることもあるんだが、最初の収録で近くで歌ってたらやっぱりそれ以上遠くにはできないのである。

だからと言って遠くで録音することが正義、というわけでもなく、この収録の距離感で音源の距離感も結構決まってくる。もうここまでくるとニュアンスの話になってくるが、本当に最初の収録というのは大切である。決して元には戻せないのでしっかりとキメて欲しい。

また、前後を表す手法として「リバーブかければいいんじゃね?」という話があるが、これは前後ではなくて空間の設定なので、こんなこと言ってる奴は馬鹿である。例えば空想の空間があるとして、近くでしゃべっても遠くで喋っても空間が広ければエコーはかかる。普通に考えてね?じゃあだだっ広い北海道のどこかの丘に居たとして、遠くで叫んでも近くで叫んでもリバーブは掛からんし変わらないでしょ?頭ぽんぽこ?リバーブでは前後を表現できないんだよ!!ムキー!!

 

音圧

最後に音圧の説明をするとする。音圧の役割とは、基本的に全体の音のボリュームを均等にしたり、音の出だしだけ強くしたり、出だしの後の音の余韻を強くしたりする効果のことである。

主にボーカルでその威力を発揮する。生の声は音量の高低差がかなりある。それを終始一定の音量にすることを…正確には一定の音量にするというわけではないが、極端にいうとそうすることで声が埋もれずにミックスできるというそういう効果である。

これも初心者にはなかなかわかってもらえない項目である。音圧に関してはみんな気になっているようで、僕が説明しなくてももっとわかりやすい教材が無限にネットにある。なんならYouTubeでも見られるからそういうのを見て勉強して欲しい。一方で最も奥が深いものだとも言えるし、人によって大きく性格の出るところかもしれない。

音圧に関しては「時間軸」の概念を頭の片隅に入れて欲しいと思う。その場で均一というよりかは、音圧はその音のボリュームや具合によって引っ張ったり縮めたりする連続的なエフェクターである。なんかこれ、理系以外には伝わらない気がする。言いたいことわかるかな…そういうこと…

音圧を上げるためにも、色んなエフェクターがある。まずはコンプレッサー、リミッター、マキシマイザーその他諸々。どれも基本的には同じだが、めちゃくちゃ簡単に説明してみたいと思う。

コンプレッサーは表現豊かだがパラメーターが複雑である。音量差でサスティーン(音の余韻)を伸ばしたり(伸ばすわけじゃないんだけど、引き上げると言った方がいいかな)音の出だしを強調したりする。実は、僕はあんまりコンプレッサーを使わない。なんか音が痩せる気がする。のっぺりしちゃうというか…滅多に使わないな…状況に応じてって感じだな…なんか潰れちゃうのよね。

リミッターは、リミットになる最大dBを設定して、どれくらいの小さい音をその辺りまで引き上げるか、みたいなエフェクター。実は僕はこれを一番多用する。主にボーカルでガッツリかける。実はコンプレッサーよりも強烈なエフェクトなんだけど、こっちの方がなんか音が痩せる?というか芯がある感じがしてよく使う。でも、コンプレッサーもリミッターも考えが違うだけで使いようによっては同じようなもんである。いや、同じとか言ったら怒られるか…どうなんだろ。みんなは音圧をあげるのにはやっぱりリミッター使ってる人多いと思う…。

マキシマイザーは、最大まで音上げてくれるだけのやつ。そんなに使わない。ここでいう最大っていうのは、波形的に最大ということであり、フェーダーで下げたら最終的なアウトはそうはならない。当たり前だけど。なんかそれすら分からない人も多いと思うので。

 

個人的には、全部リミッターで解決させている。まぁ音圧がガッツリ積極的に上がるんですが、多分僕のミックスの大きな特徴はそこだと思う。元々耳に迫るような音質や小学生の頃からダンスミュージックを聴いているので、そういうミッチミチな音圧が好きで、そういうところが周囲にも好評なのだと思う。その割には性格的に穏やかなので、そこまでケバくもないのかと思われる。下手すりゃ場合によってはギター音源にも軽くリミッターかけるくらいである。ドラムには基本何にもかけないようにしている。ドラムは生の音色で勝負した方がいいかなーって。っていうかあんまりかける人見たことないけど。ここでは思いっきり技術面には触れるつもりはなく、そういうのは他にたくさん情報が上がっているので割愛したい。

最終のステレオアウトで最終的にマキシマイザーをかけて仕上げるのだが、そういうところはのちのパートで紹介したいと思う。

最近の悩みだが、ローカットしていてもリミッターで音圧上げるとローも上がってきて結局モコモコになることである。これは、イコライザの前後にも関わってくると思うから順番を変えれば良いだけな気もするが、あまり音圧を上げすぎるとボーカルなんかは何言ってるか分からなくなることもある。もちろんかけなさすぎも良くない。普通に聞こえない。

やっぱり音圧に関する問題は人それぞれ課題があり、みんなそれぞれ悩んでいるところだと思う。色んな人の情報を集めて自分なりにミックスにつなげていくことが良いかと思われる。音源的に静かになって欲しいところもあるかと思うし、この辺は未だに一言では片付けられない領域になってくるかと思われる。

 

ひとまず、以上が基本的な概念である。もう一度整理すると

  • ボリューム
  • 帯域
  • パン
  • 音圧

…の膨大なジャンケンゲームをDTMの中で繰り広げることで自分だけの音源を表現することができる。僕の体感では、音楽を音源メインで好きな人はこういうところの表現が上手いなと思うことが多い。逆にライブが好きなユーザーは詰めの甘さがある場合が多い。

 

 

まとめ

今回のまとめをあえていうならば

  • 音圧が全てじゃない
  • ミックス・マスタリングの基本は「ボリューム」「帯域」「パン」「音圧」で繰り広げられる膨大なジャンケンゲーム

の2点である。

何回か自分でミックスをやっていくと、音の変化が分かり、どうすれば馴染んでいくのかが良くわかると思う。

ぜひみなさんも音源制作の際はこのジャンケンゲームを攻略して欲しいと切に願う。

 

独学のトラックメイカーが教える「ミックス・マスタリング講座」【その2:現代の音圧と基本概念】

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